吉祥寺バウスシアター ~1987年10月~
新型コロナのため家にいる時間が多くなった。
やることも無いので部屋の整理をしていると・・・
昔の手帳が出てきた。
1985年から2010年まで。
あの頃はスマホどころか、ガラケーも無い時代で、予定は手書きで手帳に書いていたのだ。
2010年以降はきっと携帯に予定を打ち込んだためにないのであろう。
さて、ちょっとだけ手帳のなかを覗いてみるか。
1987年、私は就職して3年目、それと同時に新宿でバンド活動をしていたのだ。
この頃はMGと言うバンドに参加していた。
1987年 10月17日 14:00入り 吉祥寺バウスシアター
THE ROCKBANDの前座のライブだ。
ん?あああ思い出した。時を戻そう。
この日の事は鮮明に覚えている。
姉の結婚式があったからである。
結婚式は10:00から神保町のJ会館で行われた。
俺は一張羅のスーツを着ていった。
午前中に結婚式。午後から披露宴という段取りだ。
両家の親戚の顔見世の後、午前中に結婚式は滞りなく終わった。
すでに12:00。
披露宴が始まった。
前菜やらスープが出てくる。
貧乏人の俺には食った事の無いような物ばかりだ。
そしてメインはフィレステーキ。
配膳が始まった。
まだまだ肉は近づいて来ない。
時間は13:00になっていた。
食いたい。
しかし、今日のライブは吉祥寺バウスシアター14:00入りだ。
食っていたら間に合わない。
でも、食いたい。
めでたい席を中座するのも失礼なのに、ましてや、「先に配膳してくれ」とも言うことも出来ず・・・。
スーツから普段着に着替え涙、涙、しながら、走って神保町の駅に向かった。
姉上様、俺は感動して泣いていたのではなく、フィレステーキが食いたくて泣いていたのだ。
吉祥寺の駅からも走って、バウスシアターには入り時間ぎりぎり間に合った。
しかし、体力を消耗して、完全に息が切れている。
今日のライブのメインはTHE ROCKBANDだ。
普段からお世話になっている兄貴分である。
まさに「四月の海賊たち」をリリースしたばかりだった。
俺達はTHE ROCKBANDの前座で出演する。
バウスシアターは、普段映画や演劇の小劇場として使われていた。
立派なステージと、階段式の客席があった。
俺はこの日を楽しみにしていた。
リハーサルが終わると、昼に何も食べていない事を思い出した。
ステーキを食いそびれ、腹が減っていた。
俺は吉祥寺に来ると、決まって食べるものがあった。
味噌ラーメンである。
当時、札幌西山ラーメンの直営店が長崎屋の1Fにあったのだ。
かん水麺の中太のちぢれ麺は、濃厚な味噌スープにからむ。
今はもう無くなってしまったが、この日もここで西山の味噌ラーメンを食べた。
一時はスーパーでも袋入りを売っていたのだが、最近は全然見ない。
しょうがないので、今では北海道から取り寄せている。
さて、ライブに戻ろう。
俺達は薄暗いステージに繰り出した。
普段出演している小屋と違って、ドラム台があってステージから一段高くなっていた。
ドラム椅子に座る。
しかし、地に足が着いていない感じで、フワフワしている。
本番一曲目が始まる。
俺のカウントから始まる曲なのだが、あろうことかスピードを間違えた。
異常に早い。
すぐにメンバー全員が振り返った。
しかし、曲は始まっている。
このスピードでやりきった。
現実ではなく、夢の中の出来事の様であった
1曲目からすでにヘトヘトだ。
出だしですべったので、その後もなかなか持ち直せなかった。
ここ最近では一番ダメなライブだった。
出番の後、舞台裏裏からTHE ROCKBANDの演奏を見ていた。
さすがに安定感のあるビートを叩き出している。
同じステージから出ている音とは思えなかった。
打ち上げは、近鉄デパート近くの「つぼ八」だった気がする。
元気のない俺をTHE ROCKBANDの寺岡さんは慰めてくれた。
そう言えば、飲み会になるといつも寺岡さんの隣の席だった気がする。
結局、閉店まで飲んでタクシーで帰ったのである。
慌ただしい1日だった。
ーつづくー