デモテープ録り ~1987年5月~
新型コロナのため家にいる時間が多くなった。
やることも無いので部屋の整理をしていると・・・
昔の手帳が出てきた。
1985年から2010年まで。
あの頃はスマホどころか、ガラケーも無い時代で、予定は手書きで手帳に書いていたのだ。
2010年以降はきっと携帯に予定を打ち込んだためにないのであろう。
さて、ちょっとだけ手帳のなかを覗いてみるか。
1987年、私は就職して3年目、それと同時に新宿でバンド活動をしていたのだ。
この頃はMGと言うバンドに参加していた。
1987年 5月6日~5月10日 渋谷Nスタジオ
5日間同じスタジオに通っている。
ん?あああ思い出した。時を戻そう。
デモテープを、渋谷のNスタジオで録った。
前回は一発録りだったが、今回は16チャンネルのマルチレコーデイングだ。
使うスタジオも同じ部屋だ。
またもやプロデューサーのKさんが付き合ってくれる。
さあ、レコーディングが始まる。
まずは、ギターとベースに仮演奏をしてもらい、ドラムパートだけを録音する。
クリックを聞きながら、全員ヘッドホンを被っての演奏だ。
いわゆるドンカマである。
これがいけなかった。
話はそれるが、ドンカマとはコルグが作ったリズムマシン「ドンカ マチック」の事である。
このリズムマシン、当時でも数十万円もしたのには驚きだ。
現在なら数百万らしい。
CPUが無い時代に、真空管でモーターを制御し、円盤を回転してドラムパターンを出していたらしい。
後にはリズムマシン全般のことを、商品名である「ドンカマ」と言うようになったのだ。
さて、レコーディングに戻ろう。
緊張のせいか走りがちになる。
一度クリックとずれると修正がきかない。
一生懸命叩いても、ヘッドホンのせいで、でかい音が出ている感じがしない。
昔の16チャンネルマルチレコーダーのテープは幅10cmほどある。
デジタルメディアは、今ならUSBメモリーで数千円だが、当時の録音はまだテープだった。
ちょうど柔道の黒帯くらいの太さだ。
オープンリールでこれを回して録音する。
値段は一巻き、10万円以上するらしい。
高価なテープが回っていると思うとますますプレッシャーがかかる。
丁度レコードからだんだんとCDに移り変わる時代だった。
しかし、CDプレイヤーはまだまだ高価で持っている人は少数だった。
20万円以上はしただろう。
初めてCDで音楽を聞いたのは、金持の友人の家だった。
クリムゾンの21世紀の精神異常者を聞いた。
レコード針のカリカリ音なしに、いきなり曲が始まった時にはぶったまげたものだ。
1日目はさんざんな結果に終わった。
ほとんどクリック練習に来ている様なものだった。
2日目も変わりはない。
3日目くらいからやっと録音出来るレベルにはなった。
4日目、5日目はリズムパートに他のパートを重ねた。
録るには録ったが自分の思っていた出来とは程遠いものが出来上がった。
その理由はヘッドフォンを付けて叩く事に慣れていなかったからだ。
ヘッドフォンを付けると、自分の音が小さく聞こえて力が入ってしまう。
力が入ってしまうとスムーズな演奏が出来ない。
アドレナリンが噴き出るライブばかりしていた俺にはそれが出来なかった。
さらに、クリックと演奏が一度ずれると修正がきかない。
ずれないようにすると、こじんまりした演奏になってしまう。
これの悪循環だ。
この時の録音テープは残っていない。
この日から普段のスタジオ練習でも、ヘッドホンをしてメトロノームを聞きながら叩く事にした。
ーつづくー