夏のツアー(別府でのオフ） ～1991年8月その6～
新型コロナのため家にいる時間が多くなった。
やることも無いので部屋の整理をしていると・・・
昔の手帳が出てきた。
1985年から2010年まで。
あの頃はスマホどころか、ガラケーも無い時代で、予定は手書きで手帳に書いていたのだ。
2010年以降はきっと携帯に予定を打ち込んだためにないのであろう。
さて、ちょっとだけ手帳のなかを覗いてみるか。
1991年、私は「伊太地山伝兵衛商会」と云うバンドに参加していた。
1991年
8月 1日 京都アザーサイド
8月 2日 大阪ニコチャン堂
8月 3日 神戸ステラ
8月 4日 六甲山カンツリーハウス
8月 5日 移動
8月 6日 移動
8月 7日 湯布院
8月 8日 大分ブリックブロック
8月 9日 天ケ瀬 水光園
8月10日 中津江 松原ダム
8月11日 宮崎ひまわり荘
8月12日～16日 フリータイム
8月17日 奄美大島
8月19日 加世田
8月20日 鹿児島Ｔ－ＢＯＮＥ
フォーク系バンドは夏のツアーが稼ぎ時だ。
ん？あああ思い出した。時を戻そう。
六甲山のフェスを終えてから車で走り続け、翌日明るくなってから別府に到着した。
疲れ切っていたので、伝兵衛さんの実家でメンバー皆、倒れる様に仮眠をしたと思う。
伝兵衛さんの実家は、別府の高速出口から別府の街へ降りていく坂の中間にあった。
次の予定は、8月7日の湯布院でのライブなので2日間は別府でのオフだった。
仮眠から目覚めると、そこは伝兵衛さんの部屋だった。
学習机とオーディオセットとレコードの棚があった。
多分学生時代のままであったのだろう。
レコード棚を覗くと、ジャズやブルースは勿論有るが、一番目についたのは、「レッドツェッペリン」のレコードだった。
当時発売されたものは、全部あったと思う。
ブルースマンの趣味は、意外にもハードロックだったのだ。
更にレコードを漁っていると、「スロッグ」のレコードを見つけた。
「スロッグ」は、俺が師匠と仰ぐドラマー、今井智さんがデビューしたバンドだ。
俺はこのレコードを伝兵衛さんに譲って欲しいと頼んだ。
快く譲ってくれ、このレコードは今も手元にある。
夕方になって、皆で食事に出かけた。
場所は、別府の街に下りる坂の途中の「モランボン」と云う焼肉屋だった。
なんと、伝兵衛さんの親父さんも一緒だった。
多分、親父さんが奢ってくれると云う話だったと思う。
二階に上がり、座敷に陣取ると、美味いものを食わせてやると、伝兵衛さんが手慣れた感じで次々と注文した。
大分県の焼肉屋は、もちろん豊後牛で有名だが、美味いのはそれだけではない。
別府でしか食えなくて、本当に美味いのは、別府冷麺なのだ。
濃厚なキムチ味の汁に絡む、ピリ辛なラー油の香りがたまらない。
薄い汁に、麺が浮いている普通の冷麺とはモノが違うのである。
暑い夏には欠かせない一品である。
肉とビールと冷麺をたらふくご馳走になった。
焼肉屋を出ると、飲み足りない人は、別府の街に繰り出す事になった。
しかし、何故かここで誰も行くとは言わなかった。
飲みに行きたそうな伝兵衛さんの親父さんの手前、俺と親父さんの二人だけで、別府の裏街に飲みに行った。
馴染みのスナックがあると云う。
親父さんを人に任せて、久々の別府を楽しもうとした伝兵衛さんの悪意を少し感じた。
伝兵衛さんの親父さんは、着流し姿の任侠者の様な外見だった。
しかし、話をしていると以外と優しい人だ。
初対面の親父さんと詳しくは何の話をしたのかは覚えていない。
馴染みのスナックで、いい時間まで飲むと、その店のママと一緒に3人で次の店に。
その後、タクシー代を渡されて、一人帰された。
親父さんの目的は、ママだったのだ。
伝兵衛親子にいい様にしてやられた夜だった。
ーつづくー
